性転換手術
SRSとは俗にいう性転換手術のことで、性同一性障害の人が対象であり、外性器を異なる性に似せる手術です。和田式SRSは非常に優れ、濡れる膣ができるとともに、陰茎・陰嚢では足りない皮膚を補えます。
手術の解説
1.陰茎・陰嚢皮弁で膣内壁を作製
陰茎腹側に縦切開、白膜上で剥離して皮弁を広げるように起こします。陰嚢は幅4~5cmで起始部を肛門側寄りにして皮弁を起こします。亀頭背側片に神経・血管束(Neuro-Vasculer-band)をつけて陰茎海綿体より起こしておきます。
肛門より2~2.5cm前方に鈍的に膣穴を作製、前方に膀胱、後方に直腸が位置し膣は奥行14~17cmとします。残りの亀頭、陰茎・尿道海綿体は切除します。
陰茎皮弁にクリトリス(陰核)用の穴と尿道用の穴を開けておき、膣穴に陰茎皮弁・陰嚢皮弁を縫合して袋状にしたものを押し込みます。亀頭背側片と尿道断端を上述陰茎皮弁に穴を開けた部位に縫合固定(陰核は性感を得られる)します。
2.入院・手術証明書(診断書) MTF実例
この診断書は裁判所に提出したものです(※画像クリックで拡大)。文面から見ても分かりますが、
「男性としての生殖能力は完全に廃絶され、長期間行ってきた女性ホルモン療法と相まって女性型の乳房、体形、女性型に近似する外性器、膣を有し、女性として社会生活を送ることが適当と考えます。」
これを読めば裁判官の心象形成でOKが出て性別変更も可能となるものです。私も裁判所向けに同様な診断書を図解つきで出しました。もちろん何ら問題なく性別変更が行われました。
3.性同一性障害診断書
こちらは、保険会社用の休業補償の診断書です。入院や自宅安静で仕事を休んだ分の給料を保険から補填するものです。
なお、SRSの治療費自体を健康保険で支払えるようになるようにと、gid.jp(性同一性障害をかかえる人々が普通にくらせる社会をめざす会)の代表の山本蘭さんたちが行政に働きかけていますが、健康保険の財政が破綻寸前ですし、一般の人の心情的にその道のりは険しいと思います。
4.手術の承諾書
文中の合併症の項目は列記しても恐ろしいことばかりですが、SRSを受けるとは、もう来るところまで来てしまった、今さらという心境ですから、承諾書に何が書かれていても署名・捺印するしかないのだと思います。
「手術中、手術後低血圧、不整脈、心筋梗塞、心停止。肺炎、無気肺、肺塞栓、脳出血、脳塞栓、薬剤アレルギー→ショック、死亡手術自体の合併症、後遺症出血、血腫、感染、創離開、痛み、尿道狭窄、尿道閉鎖、尿道瘻、変色、知覚異常と麻痺、引きつれ、膣狭窄、輸血の可能性」
5.手術についての説明書
右は原科孝雄先生が教授をされていた頃の埼玉医大の資料です。
Ⅰ-(2)で「手術を受けさえすればあなたがこれまで悩み苦しんできたことのすべてが解決するという訳にはいきません。過剰な期待を抱かずにこれまで同様に地道な解決の努力を続けて下さい。」・・・これは誠に真意を付いていると思います。
Ⅱ-(2)「手術によって望む性と同じ体になれるわけでなく、望む性の体になるべく似かよった形に近づけるにすぎません。すなわち望む性の生殖能力を得られるわけでなく、排尿の機能や性的機能あるいは性的快感を望む性と同様に得られることは困難です」・・・後半の文章ですが「説明書(MTF)」とあっても、これはFTM(女→男)が念頭にあるのだと思います。
FTMに関しては排尿の機能はシッコの飛ぶ方向が違ったり、性感は作ったクリトリスに神経・血管束をつけておけばやや過敏か鈍麻はあっても得られるものです。国内外の患者さんたちの話でも「作ったクリトリスを触れて逝ける」と言われます。
6.性同一性障害の手術療法の説明
文中の「どのような手術でも種々の以下に述べたような合併症や手術前には予想不可能な状態が生じ、予定した以外の手術、投薬、治療が必要になることがあります。明確な保障はありません」とは治療を受ける側からすると何とも心もとないのです。
しかし医者の逃げ口上ではなく、医療でやれることは限界があり辻褄合わせみたいな面も多いです。ですからインフォームドコンセント(十分な説明と同意)に基づき話を進めても、やはり医療者と手術を受ける側には心理面の溝が埋められないものです。
膣形成について、原科先生が私に興味深いことを言われました。「FTMの人はパートナーがいる率は20%くらいなんですよ。だから、ジェンダーの人に向かって『相手がいないんなら膣はいらないんじゃないですか?』と聞いたら、『いいえ膣は女のアイディアンティーだから必要です。』と返されましたよ」
・・・なるほど、私もFTMの人と話していて、「(SRS受けて形に満足でもないですが)女になれて心の平安が得られました」と言われたことがあります。膣の存在と心の平安は何か繋がっている気がします。
豊胸ですが、私は元男性には乳腺下(大胸筋上)しかやったことがないです。平成元年に徳永美容外科クリニックに私は勉強にいっていましたが、そこの徳永先生が「男は大胸筋の下にバッグを入れると上手くいきませんよ」と言われていたのが頭にあって大胸筋下には一度も入れたことがありません。感触・形・動きの点で乳腺下(大胸筋上)の方が優れるはずです。
喉仏は削り過ぎると声がかすれる合併症を生じると聞きます。また声を高くする手術(声帯の縫い縮め)も同様です。これは耳鼻咽喉科に任せた方が良いような気がします。気管切開は外科や救急科の医師も行いますがやはり耳鼻科医に来てもらってやっているケースが多いですから。
費用ですが、当HPにも120~210万円とありますが、埼玉医大がSRSをやっていた頃、費用が150~170万円だったらしいです。この値段は大学なら実費と技術料から導かれたものと思います。しかし、街の開業医の場合はタイとの比較でつけられていると思います。
SRSを受ける人たちの術前カウンセリングと術後のケア・相談を考えれば他の自由診療(美容外科)との比較でSRSには300万円以上値段をつけても不釣合いには思えません。しかし患者さんに「350万円です。」と言ったら流石にタイに行くでしょう。ただSRSをやっている医師にはこの医療に何か思い入れがあるからやっているのではないでしょうか?そうでないとやって行けない気がします。
料金
表示金額は税抜き価格となっております。
美容外科クリニックにおいてSRSは行われていないか、年間僅かな症例数しかないのが現状です(平成22年現在)。
手術項目 | 金額 | |
---|---|---|
SRS (性別適合手術) |
通常(※診断書必要) | ¥1,500,000 |
修正 | ¥200,000~ |
よくあるご質問
医学コラム
SRSにて陰茎皮弁を膣奥まで移動させるのは困難
陰茎皮弁では膣奥に届かないか、無理に伸ばせば壊死のリスクがあり、無理に伸ばさなければ浅めの膣になってしまいます。
陰茎皮弁を届かすためのテクニックとしての臍下までの皮下剥離は侵襲が大きいものです(しかしそれは確立した1つの術式とは思います)。
和田式SRSの要点
尿道海綿体を分離、背側を切開して開き造膣部に入れ込んでいるのです。
なぜ濡れるのか
以前からメイドイン和田の膣は濡れる、ローション不要と言われていましたが、この図にありますCowper腺(尿道球腺)からの分泌液にて湿潤が保たれていると考えます。
和田式SRSへの述懐
SRS(FTM)において、膣壁前面を尿道粘膜弁にて作成できましたが、これは陰茎皮弁で困難だった長さと壊死のリスク低減が図れました。侵襲も軽めで1週間で帰宅しましたし、濡れる膣を作ることができました。和田式として後世に名を残すことを願っております。